★【Yap(-)マイナス因子】という用語の誤解(2013.5.9)
web上では、誰が言い出したのか「日本人はYAP(ヤップ)因子という特殊な遺伝子を持っており、YAP因子には(+プラス)と(-マイナス)があり、アイヌ人はYAPプラス、日本人はYAPマイナスである」というような記述を時々見掛ける。
以下実際にあった書き込みから引用すると、
古墳時代の日本人は、遺伝子を調査すると「YAP」という特殊な遺伝子を持つことがわかりました。
この「YAP」遺伝子を持つ民族は、今のところ日本人しかいないようです。「YAP」遺伝子には、(+)と(−)遺伝子があり、縄文人はYAP(+)、弥生人には(−)が多いとされているようです。現在の日本人にはYAP(−)を持つようです。
この(−)因子は朝鮮半島経由で北東アジアから渡来した騎馬民族の可能性が高い因子である。
…よって縄文人を追い出した古墳人がYAP(−)ということになる。
YAP(−)因子をもつ大和民族が大陸から朝鮮半島経由で海を渡って侵攻し、一気に九州を支配したあと、西日本側の中核だった卑弥呼の都(奈良県)に攻め込んだのである。
上記のような記述は、虚実の綯い交ぜされた正に似非科学というべき文章であるが、文章の後半に行くにつれて、日ユ同祖論を語ったり、果ては日本人は宇宙人であるなどと、オカルトめいた文章につながる常套句のようになっているのが大半である。
これらの文章が如何におかしいのかを解説してみよう。
「日本人はYAP(ヤップ)因子という特殊な遺伝子を持っており…」これは何を語っているかと言うと、要するにハプログループD2、即ち縄文系の日本人についての説明であるからこの部分に関しては概ね正しい文である(※実際にはC1系のYapを持っていない縄文人もいる)。
…が、次から文章が段々怪しくなるのである。
「YAP因子には(+プラス)と(-マイナス)があり…」
おやおや? 確かに分子生物学で「Yap+」とか「Yap-」とか表記されることがありますが、これは「Yap+(ポジティブ/陽性)」や「Yap-(ネガティブ/陰性)」と言う意味で、「Yap」に「+プラス」と「-マイナス」の2種類がある訳では無い。(…そもそも「プラス」や「マイナス」という呼び方自体が間違いなのである)
「Yap+(ポジティブ/陽性)」の意味する処は「Yap遺伝子を持っている」という意味で、「Yap-(ネガティブ/陰性)」の意味する処は「Yap遺伝子を持っていない」という意味なのである。即ち、支那大陸の人も朝鮮半島人も皆「Yap-(ネガティブ/陰性)」である。
「縄文人を追い出した古墳人がYAP(−)…」などのクダリは解説するのも虚しくなるような文章であるが、「古墳人がYAP(−)」という文章は、「弥生人(O2b1)」を指すのであろう。O2b1は確かに「Yap-(ネガティブ/陰性)」である。しかし、古墳時代人の支配層がO2b1であるという確証は全く無い。むしろ現在まで連綿と一定の勢力を保持し続けているハプログループD2である可能性の方が高いと思われるのである。
ここまで読んで見えてくることは、誰かが自分の説を補強する目的を持って、専門分野で無い科学論文から、それらしい用語を肉付けして、科学でうらづけられたかのような文章を書き、出版し、世間を惑わしているという現実であろう。
上記のような疑似科学の文章の孫引きが、ツイッターやブログに氾濫している現実は洵に憂慮すべき事態である。
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