★山田洋次監督の『母べえ』が全く面白くなかった件!(2011.8.18)

先日、山田洋次監督の『母べえ』(平成20年(2008)1月26日公開)をTVで観て、衝撃を受けました。

内容があまりにもつまらなかったからです。

この映画の見方、感情移入を私が何か間違っていたのでしょうか?

何度考えても納得がいかないので、これを検証する為に以下(ネタバレしますのでまだ見て無い方は注意!!)何故「つまらない」と私が思ったのか分析することにしました。

1.父親「父べえ(坂東三津五郎)」が、国策と違う思想の文章(国賊的な思想であるらしい)を書き、思想犯として逮捕されるところから始まりますが、それが如何なる思想であったのか全く説明がされて無い為、そもそもこの家族に感情移入が出来ない(本当に国賊かもしれない)ところから始まります。

2.「母べえの父」(山口県で警察署長をしているらしい)がわざわざ上京し、「国賊的な思想はいけないよ」と忠告してくれてるのに全く反省の色が無い「母べえ(吉永小百合)」と娘たち。(ここでは「母べえの父」の言う事の方が筋が通っている点)

3.奈良の叔父さん(笑福亭鶴瓶)が、新宿で戦争中のため「贅沢は慎みましょう」、「金属は供出しましょう」と活動している女性たちを嘲り、「誰がそんなもったいないことするか!!金がすべてや!!」と豪語し口喧嘩する場面でこの家族自体がだいぶ変わった考え方でそれこそ『国賊』と言われても仕方の無い方々であることが判明。益々この家族に感情移入が出来ない点。

4.「父べえ」の大学時代の教授にドイツ語の本を借りに行く際、「母べえ」が、なぜ「父べえ」が捕まったかの説明で「いきなり特高警察がやって来て、家宅捜索され、あげくの果てに子供の前で縄をかけられ逮捕され…」。

教授は最初ふんふんと聞いてくれてますが堪り兼ねて「奥さん、『いきなりやってきて逮捕されて』と被害者ぶっておっしゃいますが、ご主人は『国賊的な内容の文章』を書いた為『治安維持法』で検挙された『思想犯』なんですよ。この『治安維持法』が良いか悪いかは別として、ご主人は法を犯しているんですよ」と説得。この教授の言う内容が、この物語で、一番冷静かつ正論であるため、以下この教授に感情移入してしまう

しかもこの教授は、戦争中で物資が少ないのに「この家族」に対してコーヒーやカステラを出してもてなし、更には貴重なドイツ語の本を返さなくてもいいですよと「この家族」に進呈してくれるのです。

にも関わらず「母べえ」は、「…ではうちの夫は犯罪者だとおっしゃるんですか!!」と逆切れしてとっとと帰ろうとする点。(この状況をここまで観て「母べえ」と「この家族」は全く反省もなく「父べえ」を犯罪者だとも思って無い「とんでも無い家族」ということが判明しこの家族に全く感情移入が出来なくなります)

5.奈良の叔父さん(笑福亭鶴瓶)が、唐突に奈良に帰り「戦後吉野で死んでいるのが見つかったそうです」と淡々とナレーションが流れるんですが、「この家族」が居候の叔父さんを追い出したから、叔父さんはさびしく奈良に戻って孤独死したのでは? という疑惑が前後のシーンから沸上がってくる為、「この家族」が本当に自分勝手な人々に見えてきます。

6.「母べえの父」(山口県で警察署長をしているらしい)が上京し、娘婿「父べえ」が「思想犯」であることが地元で知れ渡り「母べえの父」が辞職に追い込まれたことを父が告白するも、それを聞いても悪びれる様子も無く反省しない「母べえ」。(もうただの「エゴ家族」にしか見えません)

7.「父べえ」が獄死するシーン。(「予想通りの展開」+「エゴ家族にしか見えない」為全く悲しくなれず)

8.唐突に「大東亜戦争」が終わるシーン。ナレーションだけで済まされ、しかも「無条件降伏しました」という解説に(「有条件休戦やろ」とツッコミながら、感情移入が出来ない状態が続きます)

9.戦後「山崎さん」の戦友が「山崎さん」の最期を伝えに来るシーン。内容は「一戦も交える間も無く、移動中に魚雷に撃たれて沈没し散華する」という無念なもの。それをわざわざ戦友に頼んで「母べえ」に伝えてくれというもの。「一戦も交える間も無く無念に散華しました」という内容をわざわざ伝えてくれと頼むだろうか? という疑問が沸きここでもリアリティが無いように見えてきます。

10.極めつけはラストシーン。「母べえ」が年老いて死ぬ間際、家族が集まりやっと「父べえ」に逢えるねと慰めるシーンで、「母べえ」が『死んでからは「父べえ」に逢いたくありません』と「?」発言をし、全くシラけて終わります。(「生きてるうちに逢いたかった」という意味はわかるのですが、そもそも国賊的思想を転向もせずエゴを通してきた一部始終を観てきたので、全く気持が伝わりません)むしろ、死ぬまで反省しない変な家族にしか見えず、だから家族に「○○べえ」とか変な呼び方するのかなあと思えて話は終わります。

山田洋次監督が悪いのか野上照代なる人の原作が悪いのか…。

これを観て面白かったとか言う人居るんでしょうか?


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